給与を差し押さえされていたり、貸付金の回収のために公務員共済組合によって給与を天引きされている債務者が個人再生を申し立てる場合があります。
この場合、債務者が仮に破産したときには、少なくとも受任通知送付後の部分は偏頗行為否認の対象となる(破産法162条1項1号イ、3項、165条)ことから、個人再生でも、否認対象行為となる差押え・天引き額が清算価値に含むとされています。
しかし、個人再生手続では否認権が実際に行使されることはなく(民事再生法238条、245条は第6章2節を除外)、通常再生とは異なり弁済原資が増えるわけでもありません。
にもかかわらず、清算価値保障原則によって再生計画上の弁済額が増えてしまうのは不合理だという批判も強いところです(「個人の破産・再生手続」(きんざい)135頁、「提言倒産法改正」(きんざい)291頁)。
特に、給与の差押えや天引きは、破産者が積極的に行った偏頗弁済とは事情が異なるものですから、不合理さが際立ちます。
このような中、大阪地裁は、今月の「はい6民ですvol.159」(月刊大阪弁護士会2012年4月号)で、この点について次のような新運用を打ち出しました。
- 債権者による取立て・天引き済みの場合
差押え・天引き額を清算価値に上乗せ。
ただし、20万円の控除を認める - 第三債務者が供託中または留保中の場合
(1) 開始前供託部分 預貯金と同視(99万円控除可)
(2) 開始後供託部分 清算価値に上乗せせず
(3) 配当された場合 取立済みと同じ
1.は、給与差押え・天引きが債務者の直接的な行為でなく、容易に回避できないことを考慮して控除を認めるとしています。
20万円という金額については説明がありませんが、おそらく、破産手続に移行した場合、破産管財人が否認権を行使したとしても少なくとも20万円は手続費用に必要であり、破産債権者への配当原資とはなり得ないことを考慮したものでしょう。
2.の(1)、(2)は、履行可能性の審査のための積立金と同視し、これと同じ扱いを認めたものです。
全てのケースで債務者が不合理な立場に立たされることを回避できるとは限りませんが、かなりの前進ではないでしょうか。
他庁にも同じような運用が広がることを期待したいところです。